ともに生きている
吉田 修一
「保護の客体」から「権利の主体」へ。
今、日本の障害者福祉制度の大改革に向けて、活発な議論が行われていることを
みなさんご存じだろうか?制度改革の中身次第では障害者福祉制度に止まらず、
社会のあり方を問うていく制度になるかもしれない。
社会が変わっていくきっかけを作るかもしれない。
もちろん良い方に向かって、である。
私は、工房まるという障害者の施設を運営してきた。
工房まるでは、障害のある人が様々なコミュニティの中で、
その人らしく何らかの役割を果たし、誇りを持って生きて行けるよう、
アート活動を中心に様々な取組を行ってきた。
私たちは「ひとりひとり いろいろで まる」という合言葉を持っている。
この言葉には、障害があるかないか、障害は身体や知的、精神か、
そのように人をフィルターにかけ、壁越しに見るのではなく、
そんな枠はとっぱらい一人ひとりの存在と向き合っていこう、そんな思いをかけている。
工房まるの活動で、様々なコミュニティに障害のある人が存在することで、
いくつものアイデアや新しい関係が生まれたり、いろいろな物事がプラスに作用する場面を数多く見てきた。
だからこそ地域や社会の一員として、様々なコミュニティで障害のある人が
暮らしていける法整備を行おうとしている改革に、私たちは大きな期待を寄せている。
障害のある人の存在が地域や社会にとっての負担やマイナスになるのではなく、
受け止めることが地域や社会にとってプラスになる、という考えがあることでも私たちの思いと同じだ。
また注目して欲しいのは、その人が暮らす地域や社会で感じる生きづらさや不利益を「障害」と捉えるなど、
まず障害の概念が今までとはまるで違うこと。
今までの考え方は五体満足の人間を基本として、手足が動かない、目が見えない、
あるいは知的な障害がその人に“ある”としてきた。前者を「社会モデル」といい、
後者を「医学モデル」と言う。制度改革そのものは、2006年12月に国連で作られた
障害者権利条約の内容に沿うものを目指しているが、障害の考え方の「社会モデル」も当然権利条約にもあり、
今や国際水準となっている。
障害者制度改革の動きは昨年夏の政権交代により生まれた動きだが、今の政権の状況では先行きは明るくない。
しかし、別の政権になったとしても障害者制度改革の動きを止めてはならない。
なぜかというと目指している新しい制度は、今の障害のある人だけの人権(=人の存在そのもの)を守ることや、
救済や保護に限ったことではなく、国民全ての人権や尊厳を守る法律と考えているからだ。
障害のある人、ない人、あるいは障害者、健常者という言葉があるが、本当はどこかでくっきりと区別があるわけではない。
障害のある人は別世界にいる人々ではない。同じ社会や地域で暮らしている。
だから今、障害のある人が置かれている環境は決して他人事ではないはずだ。また、私たちが生きていく中で、
加齢をはじめ、何らかの事由によって身体や知的、精神に問題が生じ、生きづらくなることは
男女、年代、貧富を問わず誰にでも起こりうる。
だから「障害(=生きづらさ)」が生じる可能性も決して否定することはできない。
そういった観点から考えると、障害のある人が社会から疎外され、差別されるような扱いを受けているのであれば、
障害のない人も同様の扱いをされていると考えなければならない。
しかし、障害のある人がしっかりと社会参加でき、自分らしく生きることを追い求め続けていくことができるのであれば、
障害のない人も同様なのだ。制度改革によって生まれる新しい障害者の法律は、
私たちの暮らしや個々の尊厳を守る法律であり、全ての国民の財産になるといっても言いすぎではないだろう。
「私たちのことを私たち抜きに決めないで」を合い言葉に作られた障害者権利条約。
障がい者制度改革推進本部には多くの障害当事者がメンバーに入り、
「私たちの~」の合言葉は日本の制度作りにおいても基本となった。
私たちは想像している。障害のある人とない人という区別が解消され、社会的困難を背負わされてきた人々が、
様々なコミュニティの中でその人らしさが認められ、何かしらの役割を果たせるような社会になったなら・・・。
私たちの無意識にあるいくつかの不安が取り除かれ社会全体に活気が満ちてくると。
だからこそ今、多くの人々に関心を持って見守って欲しい。
最前線でがんばっている人々にエールを送って欲しい。
政権をどこが担っても、私たちはこの制度を手にするのだ、という強い意思を多くの人に持って欲しい。
そのためには運動が必要だが、集会をしたり道ばたでデモをすることだけが運動ではない。
親や兄弟、友人や同僚など、自分のすぐ側にいる親しい人々から伝えることを始める方が大事だ。
親しい人々が、愛する人々が、そして自らもいきいきと暮らせる社会にする為にもぜひお願いしたい。
※背景画像:吉田修一氏撮影 また、筆者ご紹介の顔写真も 同氏にご提供頂きました。
特定非営利活動法人まるmaru
http://www.maruworks.org
今、日本の障害者福祉制度の大改革に向けて、活発な議論が行われていることを
みなさんご存じだろうか?制度改革の中身次第では障害者福祉制度に止まらず、
社会のあり方を問うていく制度になるかもしれない。
社会が変わっていくきっかけを作るかもしれない。
もちろん良い方に向かって、である。
私は、工房まるという障害者の施設を運営してきた。
工房まるでは、障害のある人が様々なコミュニティの中で、
その人らしく何らかの役割を果たし、誇りを持って生きて行けるよう、
アート活動を中心に様々な取組を行ってきた。
私たちは「ひとりひとり いろいろで まる」という合言葉を持っている。
この言葉には、障害があるかないか、障害は身体や知的、精神か、
そのように人をフィルターにかけ、壁越しに見るのではなく、
そんな枠はとっぱらい一人ひとりの存在と向き合っていこう、そんな思いをかけている。
工房まるの活動で、様々なコミュニティに障害のある人が存在することで、
いくつものアイデアや新しい関係が生まれたり、いろいろな物事がプラスに作用する場面を数多く見てきた。
だからこそ地域や社会の一員として、様々なコミュニティで障害のある人が
暮らしていける法整備を行おうとしている改革に、私たちは大きな期待を寄せている。
障害のある人の存在が地域や社会にとっての負担やマイナスになるのではなく、
受け止めることが地域や社会にとってプラスになる、という考えがあることでも私たちの思いと同じだ。
また注目して欲しいのは、その人が暮らす地域や社会で感じる生きづらさや不利益を「障害」と捉えるなど、
まず障害の概念が今までとはまるで違うこと。
今までの考え方は五体満足の人間を基本として、手足が動かない、目が見えない、
あるいは知的な障害がその人に“ある”としてきた。前者を「社会モデル」といい、
後者を「医学モデル」と言う。制度改革そのものは、2006年12月に国連で作られた
障害者権利条約の内容に沿うものを目指しているが、障害の考え方の「社会モデル」も当然権利条約にもあり、
今や国際水準となっている。
障害者制度改革の動きは昨年夏の政権交代により生まれた動きだが、今の政権の状況では先行きは明るくない。
しかし、別の政権になったとしても障害者制度改革の動きを止めてはならない。
なぜかというと目指している新しい制度は、今の障害のある人だけの人権(=人の存在そのもの)を守ることや、
救済や保護に限ったことではなく、国民全ての人権や尊厳を守る法律と考えているからだ。
障害のある人、ない人、あるいは障害者、健常者という言葉があるが、本当はどこかでくっきりと区別があるわけではない。
障害のある人は別世界にいる人々ではない。同じ社会や地域で暮らしている。
だから今、障害のある人が置かれている環境は決して他人事ではないはずだ。また、私たちが生きていく中で、
加齢をはじめ、何らかの事由によって身体や知的、精神に問題が生じ、生きづらくなることは
男女、年代、貧富を問わず誰にでも起こりうる。
だから「障害(=生きづらさ)」が生じる可能性も決して否定することはできない。
そういった観点から考えると、障害のある人が社会から疎外され、差別されるような扱いを受けているのであれば、
障害のない人も同様の扱いをされていると考えなければならない。
しかし、障害のある人がしっかりと社会参加でき、自分らしく生きることを追い求め続けていくことができるのであれば、
障害のない人も同様なのだ。制度改革によって生まれる新しい障害者の法律は、
私たちの暮らしや個々の尊厳を守る法律であり、全ての国民の財産になるといっても言いすぎではないだろう。
「私たちのことを私たち抜きに決めないで」を合い言葉に作られた障害者権利条約。
障がい者制度改革推進本部には多くの障害当事者がメンバーに入り、
「私たちの~」の合言葉は日本の制度作りにおいても基本となった。
私たちは想像している。障害のある人とない人という区別が解消され、社会的困難を背負わされてきた人々が、
様々なコミュニティの中でその人らしさが認められ、何かしらの役割を果たせるような社会になったなら・・・。
私たちの無意識にあるいくつかの不安が取り除かれ社会全体に活気が満ちてくると。
だからこそ今、多くの人々に関心を持って見守って欲しい。
最前線でがんばっている人々にエールを送って欲しい。
政権をどこが担っても、私たちはこの制度を手にするのだ、という強い意思を多くの人に持って欲しい。
そのためには運動が必要だが、集会をしたり道ばたでデモをすることだけが運動ではない。
親や兄弟、友人や同僚など、自分のすぐ側にいる親しい人々から伝えることを始める方が大事だ。
親しい人々が、愛する人々が、そして自らもいきいきと暮らせる社会にする為にもぜひお願いしたい。
※背景画像:吉田修一氏撮影 また、筆者ご紹介の顔写真も 同氏にご提供頂きました。
特定非営利活動法人まるmaru
http://www.maruworks.org
プロフィール
NPO法人まる 事務局長障害福祉サービス事業所
工房まる 施設長
1971年大阪生まれ。九州産業大学写真学科卒。
大きなテーマとして「人」を撮っていた大学時代、
卒業制作で「障害者」に焦点をあて養護学校に通う。
そこでの体験がきっかけとなり、
1997年に「工房まる」を開設。
2007年NPO法人設立、現在に至る。