星 の て が み

動物園でできること

岩野 俊郎

 
「 動 物 園 で で き る こ と 」というのは昨年、
アートディレクター森本千絵さんによる到津の森公園での
「動物園で、森本千絵°展」のキャッチフレーズでした。
森本千絵さんが私たちの動物園に係わってくださるようになって、
新しい動物園像を描きはじめるようになりました。
動物園って私たちが今まで思っていたよりもずっと奥深いものです。
例えば動物舎の配置一つとっても、作り手の意思が観る人にきちんと伝わらなくてはなりません。
自分勝手という自意識あるいはこうあるものという先入観を捨てる必要があります。
これからの動物園を考えるにあたって必要なことはまったく新しい生業(なりわい)を起こすという意識です。
そのようなことに思い至ったことがあったでしょうか。
動物園とはこんなものという意識がどこかに潜んでいたのではないでしょうか。

大昔(といってもおよそ40年位昔のことですが)、こぞって動物園を建設した時代がありました。
その動物園に収容された動物はどのようにして日本へやって来たのでしょうか。
当時、まだ周囲は豊かな自然に恵まれ、熱帯の自然は無尽蔵と思われていました(もっとも日本からの想像ですが)。
そこに生息する動物をひっぺがして持って来たとしても誰からも苦情が出ないような時代でした(ほんとかな)。
しかし、現状は深刻です。豊かな自然は加速度的に破壊され減少しています。
ということは無尽蔵だと思っていた自然にも限りがあるということでした。
動物園の動物はどこから供給されるのでしょうか。
もう自然環境からという選択肢はなくなりました。
そう、動物園というネットワーク以外にありません。
しかしながら現在各地で行われている動物園改造改革はまだ豊かだと思っている自然をバックボーンとして計画されています。
自然から収奪できる動物はもうどこにもいないのです。まったく新しい動物園像を創造するほかはありません。

今、園が持っている一番の力はなんですか。
それは揺るぎのない地域社会(コミュニティー)とそれを取り巻く、失ってはならないこの地域の自然です。
全国どこも同じ顔の動物園を必要としているのではありません。解決策は未来を見つめる確かな目です。
ここで書き尽くせない想いもあります。
ぜひ到津の森公園の私のブログ「国立動物園」を読んでください。※背景画像:岩野氏ご提供

到津の森公園HP
http://www.itozu-zoo.jp

  
column46
 

プロフィール

1948年 下関市にて生まれる
1968年 山口県立下関西高等学校卒業
1972年 日本獣医畜産大学
  (現 日本獣医生命科学大学)獣医学科卒業
1973年 西日本鉄道株式会社 到津遊園入社
1997年 同園長就任
2000年 到津遊園閉園
2002年 到津の森公園 園長就任
(社)日本動物園水族館協会理事
       (九州沖縄ブロック代表理事)
NGO 日本アイアイファンド理事
北九州市立大学非常勤講師

●著書
「戦う動物園」(中公新書)共著
 (旭山動物園園長 小菅正夫)

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