星 の て が み

蝶 と 碑

岡戸 敏幸[おかど としゆき]
 

国文学者・山口剛(1884~1932)は、
関東大震災の直後、特別な愛情を注いだ江戸の石碑をたずね歩き、
畢生の文業「断碑断章」が生まれた。

そのうちのひとつ、出山寺(台東区)にのこる采女塚の前に、
今日再び立った。

自死した僧侶を追って浅茅ヶ原鏡が池に身を投げた遊女釆女を悼み、
大田南畝らが文化元年(1804)に建てた石の柱は、
陰翳ある初夏の陽光を浴びて美しくみえる。
白い翅にふたつの黒点のある蝶が、碑をめぐって飛ぶ。

自然と人為
うごくものとうごかないもの
きえるものとのこるもの 
生と死のあいだ
いま ここに 私がいる実感が深くなっていく
いしぶみに白蝶のとぶうつつかな  
雨声

  
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プロフィール

1963年東京生まれ。       

早稲田大学大学院修士課程修了。       
日本美術史を学ぶ。       
サントリー美術館学芸員を経て、       
現在、早稲田大学文学部非常勤講師。       

著書       
●『虹をみつけに』        
(「月刊たくさんのふしぎ」

  第248号福音館書店)       
●『影と身体のイコノロジー』(仮題)
を人文書院より本年出版予定。

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