星 の て が み

七転び八起きとつるつるの恩返し

柴田 史朗[しばた しろう]

 
 
昔、転んでは起き、転んでは起き、なんとか七転び八起きを成し遂げようと
必死に努力している若者がいた。けれども、何年経っても七転び七起きしかできない。
見かねて、ある頭の良い人が助言した。動物は赤ん坊の時は寝た状態である。
そこから起き上がり、倒れ、起き上がりをくりかえすので七転び八起きなのだよ。

・・・若者は答えた・・・

それは八起き七転びであるから私は認めない。それから数十年、懲りもせず、
転んでは起きを一日中続けていた元若者の心臓が突然停止した。
七転び六起きで亡くなり、さぞかし無念であったでしょう、
との弔辞が読まれた。けれども元若者は満足だった。
なぜなら。
5階のマンションからエレベーターで棺が運び出された時が、七起き目。
そして今、煙突の煙として立ち上がることで七転び八起きを完成させたのだ。
煙は嬉しそうにウニョウニョウニョと天国に昇っていった。

昔々、オスの鶴が貧しい一人暮らしの女に助けられた。

トントントン。

いと清げな若者が立っていた。子供が出来た。

トントントン、

決して僕が織ってるところを見てはいけませんよ。
夫の織物は都で高値で売れたので、妻は決して部屋を覗こうとはしなかった。
決して決して決して見てはいけませんよ、と、どんなに強調しても妻は覗かない。
夫はついに切れ、ガチャガチャガチャと乱暴に旗を織る。
思わず怒った妻は「あんたなんしよっとね!子供が目ば覚ますでねーか」と
障子をガラッと開け放つ。
見ましたね、と、解放の喜びに浸るオスの鶴の頭は
完全に禿げ上がっていた。
鶴はなんと自分の頭の毛を抜いて機を織っていたのだった。

これをつるつるの恩返しと呼ぶ。
  
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プロフィール

1949年生まれ。 

真面目な精神科医  
柴田メンタルクリニック院長 

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