星 の て が み

L a M a n o の 森 か ら

朝比奈 益代

 
ここは、東京 町田市の郊外、緑に囲まれた古い民家を利用した
クラフト工房La Manoという主に知的障がい者の方が通う通所授産施設です。
自然染料による染色や染めた糸を使った手織りなど、
目にも心にも穏やかな製品を日々作っています。
2006年からは、絵画などを制作するアトリエ活動も始めています。

私は今、その2階のアトリエの窓からふと外を眺めています。
(5月のある日)さっき降ったお天気雨のおかげで、
やわらかそうな新緑の葉がしっとり濡れて輝いています。
うす紫のシャガ、深い赤紫のツツジ、野性的に枝を伸ばすピンクのバラが彩りを添えています。
このあいだは、木々の間からこちらを窺うタヌキと目が合ってしまいましたっけ。
部屋の中に目を戻すと、大好きなジブリのCDに合わせて歌を口ずさみ
リズミカルにからだを揺らしているMさん。
自分で染めた紙で貼り絵をしていましたが、そちらの方はちょっと一休み。
庭で摘んだ花をポストカードに描いているKさん。大胆な色使いで淡々と描いています。
唯一の男性Fさんはニコニコしながら好きな言葉をつぶやいています。
まるで秘密の呪文?とてもゆっくりした時間の中に生きている人たち。
ここでは、普段暮らしている社会の常識がどこかに行ってしまうことがあります。
曲がりなりにも社会の片すみで生活してきた私にとっては???の連続。
アトリエ活動にしても、アートは自由な表現の世界なのだと頭で分かっていても、
これをこういう風にやってしまうの…と驚きの連続。
でも、なんだか気持いい 身体で感じられる表現なのだと思います。
言葉で伝えることが苦手な人たちも、
絵を描いたり物を作ったりすることで周りの人たちと繋がることができるということは、
素敵なことです。感覚にダイレクトに伝わることは、頭でわからない分、
いろんな感覚を総動員してゆっくり味わえるのだと思います。

だいぶ窓の外の光の感じが変わり、緑が濃くなってきました。そろそろ帰りの時間。
La Manoを囲む自然は日々どんどん移り変わり、目を向けなければ気がつかないことが沢山あります。
ここでは、気づこうとしなければ気づけない様々なことがあって、
ちょっと立ち止まると見えてくるものがあることを知りました。
自然は言葉で語りかけてはこないけれど、大切なことを教えてくれます。

La Manoのアトリエで生みだされる線や形や色は、自然のようにありのままです。
言葉はなくてもこちらが耳を傾ければ伝わってくること、
そんな密やかなメッセージを、大切にしたいと思います。

La Mano
http://www.la-mano.jp

  
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プロフィール

1968年 群馬県生まれ
1990年 女子美術大学卒業
2004年よりクラフト工房La Manoに非常勤で勤務

 

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