星 の て が み

都 市 の 緑 に 思 う

武林 晃司

 
環境の時代に入り都市の緑化が注目されています。
試しに、都市の緑がどのくらい環境に貢献するかを計算してみました。
一人の一年間の二酸化炭素排出量を吸収するためには
7mの街路樹が約630本も必要になりました。街路樹の3.0km相当でしょうか。

福岡市内に街路樹は約50,000本ありますが、
全体でもわずか80人分の排出量しか固定できないことになります。
一方、成長期の森林は針葉樹林で1ha当たり年間10トンの二酸化炭素を固定する
といわれています。福岡市の森林面積は約11,000haですが、
全体でも1万人分の排出量しか吸収できません。
この数字だけでは、緑はあまり環境問題に貢献しないのでしょうか。
そうではありません。我々の排出量が多すぎるのです。
緑化も重要ですが、それ以上に我々のライフスタイルを改めることが必要だと言うことです。
今、フェニックスやホルトノキなどが亜熱帯の害虫や新たな細菌などの影響で枯死するケースが増えてきました。
温暖化は街路樹にとっても深刻な問題です。緑が身を呈して我々に警告しています。
また、都市のヒートアイランド緩和や省エネを目指して、建物の屋上緑化や壁面緑化も
盛んに行われるようになってきました。実際、緑は建物の省エネに貢献するようですが、
忘れてはならないのは屋上や壁面に緑化するための特殊土壌や設備等に多くのエネルギーが必要なことです。
エネルギーの先食いです。また、屋上は地下水を吸い上げないので、後々の灌水にも余分なエネルギーがかかります。
自然でないものにはどこかにエネルギーがかかります。
やはり、緑は地上に植えて大きく育てることが基本だと思います。

ウィンブルドンや甲子園球場など、緑の壁面が美しいところはほとんどが地植えで、
緑の特徴をよく活かしています。緑も生き生きしています。
やはり、自然に従うことが一番の省エネにつながるということでしょうか。

しかし、一方では、都市の中で大きく育った緑が迷惑なものとして扱われるケースが増えてきました。
福岡市のある住宅地の歩道整備の際に大きく育った街路樹が消えてしまいました。
秋の紅葉がきれいなナンキンハゼの並木でした。
確かに、街路樹があるために歩道は狭いし、隣接する住宅には落ち葉や日照などの問題があるのかもしれません。
しかし、落ち葉もまた秋の風情だと考えると、せっかく育った樹木を伐採しなくてもよいと思うのですが、
住民の強い要望を受けて、やむなく切られたようです。
狭い歩道に大きく育つ樹木を植栽した我々にも責任があります。
今、都市は多くのものにあふれ、雑然として風景を呈しています。
安心・安全、利便、効率をよくするため、さらにものが加えられています。
このような都市の風景に秩序と潤いを与えるのは緑しかありません。

アンケート調査によると飛行機の騒音対策に最も効果的なのは緑という結果が出ています。
緑が音を吸収するだけでなく、緑の視覚的な効果が騒音を緩和するのです。
緑の風景が人に癒しや安らぎを与えるのです。
二酸化炭素を酸素に変え、都市気象を緩和し、都市の風景に秩序を与え、
我々に癒しと安らぎを提供してくれるのは緑です。
その意味では、環境問題を解決する王道はテクノロジーではなく、やはり緑だと思っています。
そして、都市の美しい風景を作る主役も緑です。
それを信じて、私は日々、緑に負担をかけないように気をつけ、
緑に感謝しながら、少しずつでも元気な緑を増やす努力を続けていきたいと考えています。


  
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プロフィール

1955年 福岡市生まれ
1978年 緑景にてランドスケープの計画・設計を行う。
主な作品は「宗像ユリックス」「松風園」「ピアトピア」

技術士、樹木医 趣味 陶芸 盆栽

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