星 の て が み

『おばあちゃんがいた頃』

   吉田 はるみ[よしだ はるみ] 

 
おばあちゃんがいた頃の我家の一年。

春。
その年の初物がたくさん出回り始めます。
ツワブキ、フキノトウ、タケノコ。初物を食べる時には「七十五日長生きせーろ」と
唱えながら口に運びました。ヨモギがたつ頃には、お正月の残りの水餅が畦道でつんだ
ヨモギを使って自家製のおもちになりました。
針供養は、豆腐にさした針の姿がたのしかった。
短かった日も気がつく頃には夕方が明るい季節になります。
一日一日お米一粒づつ日が長くなっていくのだと教わりました。

夏。

梅雨が終わる頃には、襖を夏用の建具に衣替え、濡れ縁にはすだれがさがり
夏仕様のたたづまいになります。
七夕には太陽が昇る前に、芋の葉に降りた朝露を集めにいきました。

秋。

今度はお米一粒づつ日が短くなりはじめ、いつのまにか夕方が暗くなっています。
十五夜は、おだんごは飾りませんでしたが、月が高くなった時分に水をはった桶に
月を写して、家族順番に眼を清めました。

冬。

どんなに寒くても亥の日まで待ってコタツの火入れをしました。
師走は総出のおもちつき。
大晦日の夜は拝み鰯の上る食卓を家族で囲むけごぞろい。
お正月は欠席しても、大晦日の夜は全員でなければ許されませんでした。
ここで一年の無事に感謝。
年が明け、また一年がはじまります。

おばあちゃんがいた頃はこの一年を毎年繰り返していました。
続けている習慣もありますが、思い出せない事も沢山あって、
生きていた頃にもっと尋ねておけばよかったと思います。
今思えば、いろいろな習慣や風習が入り乱れていたのかもしれませんが、
季節に寄り添った生活がありました。

造園の仕事に係わりながら、冷房の効いた部屋でパソコンに向かって作業に追われ、
季節の移り変わりに気が付かない生活を送る自分を、子供時代の生活を思い出して戒めてもいます。

  
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プロフィール

柳川市生まれ 

福岡県久留米市在住 
主に造園の設計に従事

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