星 の て が み

「ほんとうのこと 」

   蔵冨 千鶴子[くらとみ  ちずこ]

 
 
子どものころから本好きだったわたくしは、
社会に出て働く時期にさしかかって、急速に子どもの本に傾いていった。

子どもの本を作ることを仕事にしたいと思ったが、ためらいもあった。
主に子どもを読者に想定することは、レベルを下げることではなく、
むずかしい言葉を使わないで、人にとって大切ななにかを、
簡潔に伝えることだったのだが…。

そんな迷いを吹き払ってくれたのが『星の王子さま』
(サン=テグジュペリ作、内藤濯訳 岩波少年文庫)だった。
最初に手にした1963年5月29日以来、なんど読み返したことか。
読むたび新しい気づきがあった。

献辞のなかに、「おとなは、だれも、はじめは子どもだった」とある。
まず、人はおとなも子どもも本質は同じであることを思い起こさせられる。
また、おとなは見かけや数字でものの値打ちを測るが、
ほんとうに大切なものは、目に見えないもの、
心の目で見なければ肝心なことはつかまえられない、
と作者は子どもの曇りない心をよりどころに、おとなの価値観をくつがえしていく。

子どもたちにこそ、話したい!
この本は、砂漠に不時着した飛行士の「ぼく」と、あちこちの星を巡ってきた
ふしぎな男の子との、出合いと対話を描いた、メルヘンの形をとっているが、
作者の思いは深い。

命、人、愛、孤独、社会、自然、希望、永遠…
やわらかな絵と言葉のあいだから ‘ ほんとうのこと ’ がほの見えてくる。
  
 

プロフィール

1939年東京生まれ。

小学生、中学生時代の7年間を山口県の海辺の町に住む。
東京都立駒場高等学校卒。

青山学院女子短期大学英文科卒、同専攻科修了。
1965年より98年まで絵本専門の出版社に勤務。
絵本の編集・製作と創作に携わる。

絵本作品に 
●『どんくまさん絵本シリーズ』(柿本幸造・絵)

     全26冊をはじめ、
●『のらいぬ』(谷内こうた・絵) 
●『ゆうやけいろの くま』(つるみ ゆき・絵)

     などがある。(いずれも至光社刊)